高齢者の事故 ―冬の入浴中の溺水や食物での窒息に注意―

高齢者は加齢に伴う身体機能や認知機能の低下、病気や薬の影響などの要因によって思いがけない事故に遭う可能性があります。

高齢者の不慮の事故状況

厚生労働省「人口動態統計」によると、令和5年の1年間に不慮の事故で44,440人が亡くなっています。そのうち、65歳以上の高齢者は39,016人と、死亡者数の87.8%を占めています。
高齢者の不慮の事故の主な死因として挙げられる「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」では、令和5年にそれぞれ8,270人、7,779人が亡くなっており、不慮の事故で亡くなった高齢者全体の約4割を占めています。なお、交通事故での死者は2,116人となっています。 平成25年から令和5年における10年間の推移をみると、人口は令和5年には10年前から14%増であるのに対し、「不慮の溺死及び溺水」による死亡者は31%増加しています(図1)。
また、「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」の令和5年月別の死亡者数については、特に12月、1月といった冬場に多くなっており、冬の寒い時期に増加する傾向があることがわかります(図2)。

 

図1 65歳以上の人口と「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」「交通事故」死亡者数(※1、2)

グラフ:画像:65歳以上の人口と「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」「交通事故」死亡者数

 

図2 65歳以上の「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」の月別死亡者数(令和5年)(※2)

グラフ:画像:65歳以上の「不慮の溺死及び溺水」、「不慮の窒息」の月別死亡者数(令和5年)

 

そこで、冬の寒い時期に特に注意が必要な入浴中の溺水事故や食物の誤嚥事故について、事故の状況と注意ポイントをご紹介します。

溺水事故

令和5年の「不慮の溺死及び溺水」事故で亡くなった65歳以上の高齢者は8,270人です。そのうち、浴槽での事故で亡くなったのは6,541人(うち、家や居住施設の浴槽での死亡者数は6,073人)で、「不慮の溺死及び溺水」事故で亡くなった高齢者のうち、約8割が入浴中に亡くなっています。

冬場に溺れる事故が増える原因としては、温かい室内と寒い脱衣所や浴室との寒暖差などによる急激な血圧の変動や、熱い湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害が挙げられます(図3)。

イラスト:入浴時の温度差による血圧変化のイメージ

入浴前のポイント

○温度差を減らすため、前もって脱衣所や浴室を暖めておきましょう

○部屋間の温度差について温度計を活用し、温度の見える化をしましょう

○脱水症状等を防ぐため、入浴前に水分補給しましょう(入浴中でも喉が渇いたらこまめに)

○食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避けましょう

○同居者がいる場合、入浴前に同居者に一声掛け、入浴中であることを認識してもらいましょう

入浴時のポイント

○湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にしましょう

○湯温や入浴時間などについて温度計やタイマーを活用して見える化しましょう

○浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう

○同居者はこまめに声掛けをして様子を確認しましょう

○浴槽内で意識がもうろうとしたら、気を失う前に湯を抜きましょう

 

高齢者における冬場の入浴中の事故を防ぐため、これらのポイントを参考に、入浴の環境や行動を見直し、快適で安全な入浴を心掛けましょう。また、身近に高齢者がいる方も、自分事として事故防止に取り組みましょう。

食物の誤嚥事故

令和5年の「不慮の窒息」事故で亡くなった65歳以上の高齢者は7,779人で、そのうち、気道閉塞を生じた食物の誤嚥事故で亡くなったのは4,215人と、「不慮の窒息」事故で亡くなった高齢者の5割以上を占めています。
高齢者では、加齢とともに生じる口内や喉の変化から、食べ物を喉に詰まらせやすくなり、窒息のリスクが高まります。
厚生労働省「人口動態調査」の平成30年から令和元年までの2年間の調査票情報を基に消費者庁が行った分析(※4)では、高齢者の餅による窒息死亡事故の半数近くは1月に発生しており、中でも正月三が日の多さが目立つことがわかっています。また、男性が女性より2.6倍死亡者が多いこともわかりました。

餅等を食べる時のポイント

窒息事故のリスクを下げるため、次のような点を参考に食べ方などを工夫しましょう。

 

○小さく切り、食べやすい大きさにする

○一度に口に入れる量は、無理なく食べられるくらいにする

○食べる前にお茶や汁物などで喉を潤す

○ゆっくりとよく噛んでから飲み込む

○周りの人は高齢者の食事の様子に注意を払い、見守る

 

食物を口に入れたあとに、苦しそうにしている、顔色が悪い、声を出せないといった様子や、喉をつかむ動作(窒息のサイン(チョークサイン))が見られたら、窒息が疑われます。この場合、詰まらせた食物を直ちに取り除くこと(気道異物除去)が必要です。

気道異物除去の応急手当方法

「背部叩打法」

背中を力強く叩いて詰まったものを吐き出させる方法です。手のひらの付け根部分で、左右の肩甲骨の中間あたりを、数回以上力強く叩きます(図4)。

「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」

相手の上腹部を手前上方に強く突き上げて、喉等に詰まった餅を取り除く方法です。背部叩打法で餅等が出てこないときに行います(図5)。
※腹部の内臓を傷める可能性があるため、この方法を用いた場合は救急隊にその旨を伝えるか、速やかに医師の診察を受けさせてください。乳児や妊婦、高度肥満の人に行ってはいけません

背部叩打法と腹部突き上げ法を示したイラスト

これらを参考に、冬の時期に注意が必要な事故を防ぎましょう。 
 
※1:厚生労働省「人口推計」(各年10月1日)を基に消費者庁で作成。
※2:厚生労働省「人口動態統計」を基に消費者庁で作成。
※3: 政府広報オンライン「交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!」
※4:消費者庁「年末年始、餅による窒息事故に御注意ください! -加齢に伴い、噛む力や飲み込む力が衰えてきます。 小さく切って、少量ずつ食べましょう。-」(令和2年12月23日)
※5: 政府広報オンライン「餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は?」

 

消費者庁資料:コラムVol.12 高齢者の事故 ―冬の入浴中の溺水や食物での窒息に注意―

千葉県